2012年12月3日月曜日

第55回日本甲状腺学会

2012年11月29日から12月1日まで福岡にて開催された「第55回日本甲状腺学会」に参加しました。
今回は発表なしの気ままな学会出席でした。

 原子力発電所の事故による福島県民の甲状腺癌の疫学調査の発表があり、多くの出席者が参加、意見交換となりました。検診の対象は震災時0~18歳であった福島県民(県外避難者を含む)の約36万人です。福島県立医科大学からの発表で、国指定の避難地域住民38114名の甲状腺がんの検診を施行。癌の発症は認めなかったとのことでしたが、若干の住民が経過観察となっているとのことでした。今年5月から2年間で32万人の甲状腺がんの検査(超音波検査)を予定されています。長期にわたる被爆者検診の第1歩です。小さな子供さんがおられるご両親や本人たちのこれから長期にわたる心配や怯えを考えると、国会議員の脱原発の討論もむなしい限りです。
被災された住民だけを調べても発症率が分からないので、日本で3か所において小児甲状腺がんの疫学調査も開始されます。われわれ甲状腺専門医だけでは人数が少ないので、甲状腺専門の超音波技師の育成も並行してする予定です。

 バセドウ病と妊娠についての疫学調査(POEMスタディ)の中間報告があり、こちらも活発な意見交換がありました。母子とも健康に出産するためのエビデンスが集まりつつあります。

 甲状腺クリーゼについての疫学調査も私にとっては衝撃でした。バセドウ病無治療や治療中断患者さんが感染症などの様々な原因により甲状腺中毒症による多臓器不全を生じる病気ですが、大きな地方を代表する病院での集計で、死亡率は約10%とのことでした。私も勤務医時代は1-2年に一人は甲状腺クリーゼを治療し幸い死亡された方はおられませんでしたが、ほとんどの患者さんは意識無く、高熱、心不全、消化器症状にて救急車で搬送されるために、甲状腺疾患とはわからず、お亡くなりになる方も多いと思われます(何しろ、多くは重症・軽症の患者さんで戦争状態となっている深夜の救急室ですので)。バセドウ病で命を落とさぬように、治療中断は大変怖いことだとお考えください。

日本から多くの調査・研究が発信され、福岡の甲状腺学会は大盛況でした。